オレの家、というと語弊があるかもしれないが、今住んでいるマンションは八階建てで築年数も浅く、比較的若い年齢層が好みそうなレンガ造りの外観が、モダンな雰囲気を感じさせる。
二十一歳の独身女性が住むには聊か贅沢な3LDKの姉の部屋に居候し始めてから(同居ではなく、居候だ)掃除洗濯食事の家事全般を女性である姉ではなく、男性のオレが全て担っている。
その理由として挙げられるのがまず、この家の主人は姉であり、オレはあくまでも家族が戻ってくるまでの期間限定の居候だからだ。職業学生という身分であるため、姉のように生活費を自分で負担するのは難しい。
よって、それを補うために年頃の少年に似つかわしくない炊事だの洗濯だのをやらされている。
我が小原家の家訓は、働かざるもの、食うべからず。現実というやつは中々厳しいものだ。
そしてまた、状況からいっても姉が家事をやるのは難しい。
六歳年上の姉ちゃんは、高校を出て短大へ進学後、父親の知り合いの紹介で結構大手の出版社へ就職した。
あまり大きな声では言えないが、まあその、いわゆるコネ入社ってやつ(でも、うっかりこれを本人の前で言うとマジで殺されそうになるので、あくまでも紹介、だそうです)。
一応聖女出身なんだから名のある大学にでも行っておけばいいのに、本人はさっさと卒業して働きに出たかったらしい。まったく、女のくせに男前なことだ。
何でも最近は新人作家さんの担当についたとかで、帰りは深夜過ぎる事が多く、月の三分の一くらいは泊まりで仕事のため一緒に住んでいても殆ど顔を合わせることが無い。
我が姉ながら、仕事は多分出来る方だと思うし、頭だって悪くないはず。
外見は、まあ、うちの優秀な遺伝子の持ち主ですから、身内のオレが贔屓無しに見ても平均以上の評価は貰えるだろう。昔からオレ同様、手紙だのプレゼントだの山ほど貰ってみたいだし(そういえば女の子からもよく告られてたな……結局、そういう血筋なのか……)。
しかしこれだけ聞くと、随分恵まれた人生に思える……が、そこはやっぱり神様も考えていらっしゃる。
人間には必ずつきものである欠点というものが当然この姉にもあって、彼女の場合それは家事だった。
まともに作れる料理といえば、せいぜい目玉焼きかトーストくらい。洗濯は、全自動洗濯機という便利な文明の機器があるにもかかわらず、洗剤を入れずぎて洋服をベトベトにしちゃうし、掃除をやらせれば、四角い部屋を丸く掃く癖があるのか、掃除機を使っても部屋の四隅に必ず埃が残っている。ほんと女らしさの欠片も無い。元々大雑把な性格なんだろうけど、それにしても雑だ。
興味が無いものには全く関心を持てない所はオレと一緒で、料理も掃除も洗濯も、何度やってもさっぱり上達しない。姉は家事の神様からトコトン見放された人だった。
これで将来ちゃんと嫁にいけるんだろうかと弟ながら心配になるが、しっかり者ならぬちゃっかり者な姉ちゃんの事だから、きっと家事を快く引き受けてくれる気のいい旦那様をそのうち見つけるだろう。ってか、早いとこいい伴侶をつかまえて、さっさと嫁にいってくれ……
そんな姉と一緒に暮らしているオレにとって、今日は久々に母さんが帰ってくるから家事を一切やらないですむ、貴重な休息の日。
トゥデイズワンダフルホリディ!イッツアフリータイム!
……なんだからさ、一応。久々に会う可愛い息子が疲れて帰ってきた時くらい、何かもっとこう、労いの言葉の一つも有って然るべきなんじゃないでしょうか、ね。
「ただいま〜」
と、普段は言わない挨拶を口にしてドアを開けたオレに。
「悠君、律ちゃんは!?」
「…………」
(おかえり!の言葉も無く、第一声がそれですか……)
約二ヶ月ぶりに会った我が実母は、いい歳して相変わらずフリフリでヒラヒラの、レースが無駄にくっついたピンクの可愛らしいエプロンをしていた。バックグラウンドに、赤やオレンジの色とりどりなお花畑と、白や黄色の蝶々さん達が優雅に舞っているように見えるのは、オレが疲れているからなのか……いつもの事とはいえ、この人を見ると何故か力が一気に抜けるるんですけど。
オレにソックリだと言われるこの人(いやオレがソックリなのか)は今年で四十二歳になるというのにかなりの童顔だ。しかもどこかの少女マンガから出てきたような、乙女チックな恰好をしているので、オレと姉ちゃんの三人でいると少し年の離れたきょうだいにしか見られない。性格や行動も、いくつになっても夢見る乙女というか、少女マンガを地で行くというかなり個性的な人だ。外見は別として性格は、母さんとオレは全く似ていない。と思う。
「今日は用事があるから、明日来るってさ」
ドアを後ろ手に閉めて言うと、右手にお玉、左手に調味料を手にした母さんは大袈裟に肩を落とした。
「えぇ〜っ、律ちゃん今日は来ないのお?せっかく頑張って律ちゃんの好きなもの一杯作ったのに……」
母さんの言葉通りテーブルの上には、オムライスだの、目玉焼きの乗ったハンバーグだの、アップルパイだの、子どもが喜びそうな定番の洋食メニューがずらっと並んでいる。
(うわ……ほんとにあいつの好物ばっかじゃん)
律は大人びた外見を裏切って、味覚が幼稚園児並みにお子様だ。一見野菜中心の和食とか好きそうに見えるけど、こういう子供が好きそうなわかりやすい食べ物が実は大好物で、しかもこれまたイメージにないけどかなりの甘党だ。
思いっきりブラックのコーヒーが似合いそうな顔してるくせに、砂糖は最低スプーン三杯は入れないと苦くて飲めないとか。オレは逆に辛党だから、甘いものは苦手な方だ。
でも世間のイメージは間逆らしくて、オレの方が甘いお菓子を貰う事が多い。でも食べられないから、みんな律にあげちゃってるんだけど。実は。
「用事があるって、学校の? それともまさか、律ちゃん……彼女とデート!?」
母さんはオレの脱いだワイシャツを受け取って、代わりに着替えのTシャツを渡すと、目をキラキラ輝かせて興味津々に聞いてくる。女の人って、ほんとこの手の話題好きだなあ。
「ただの予備校だって。あいつ高校入ってからはずっと彼女いないよ」
だって平日の放課後は予備校以外毎日オレと一緒にいるし、休みの日も大抵前日からうちに泊まりに来ている。もし彼女がいたらそんな時間はないだろう。
「えっそうなの?なぁんだ、残念。彼女ができたら紹介してもらって、一緒にお買い物に出掛けたり、美味しいケーキを作るのが夢なのよ……」
(……おいおい。あんた一体、誰の母親だよ……)
律の彼女と仲良くなってどうすんだ。相手が違うだろう、相手が。
「そういうのはさ、『オレの彼女』としたいっていうのが自然なんじゃないの?」
Tシャツに袖を通しながらそう言うと、
「だって悠君、彼女いないし。つまんなーい」
ふぅ、と大きく溜息を吐いて一刀両断。ばっさり切ってくださった母上さま。カチンときたオレは即座に言い返した。
「どうもすいませんね!つまる話題を提供できない、不甲斐ない息子で……!」
オレの寂しい恋愛事情は、放っといてくれ!
「ただいまー……お母さん、久しぶり〜」
微妙に空気が悪くなりかけた所で、家主であるオレの姉、小原実都希(こはらみつき)さまが帰宅した。
「やだみっちゃん、また髪切っちゃったの!せっかく結べるくらいまで伸びたのに」
やっぱりお帰りの挨拶もそっちのけで、母さんは久々に会った姉ちゃんの肩よりも少し短くなった茶色の髪の毛を見て、大げさに溜息を吐いた。
「だって夏だから長いと暑くてうっとうしいし。どうせすぐにまた伸びるから」
ええ〜勿体ナーイ、と女子高生のような緩い喋りで小さく反論している母さんに「それより、お父さん元気にしてる?」とマイペースに話題を振った姉ちゃんは、テーブルにあったアップルパイを一切れ取って口に入れた。
「うわあ、何これ。激あま……」
眉を顰めながら、残りの半分をオレに押し付けてくる。
どうやら姉ちゃんもこの甘さは受けつけなかったらしい。
「こんなに早い時間に帰ってくんの、久々じゃん、姉ちゃん」
受け取った残り物のアップルパイを食べながら、オレは隣の部屋のリビングのソファーにどっかりと腰掛けた。
(……ほんと、これ。あまっ。超律好みの味だよ)
「今日はお母さんが来てるから。たまには、ね」
「え、なぁに。みっちゃん、いつもはそんなに帰りが遅いの?もしかして、誰かお付き合いしている人でもいるとか!」
母親として娘の普段の素行が気になるという理由ではなく、単純に持ち前の好奇心で聞いているだけの、とことん無邪気な母さんに対して、
「いないって。仕事が遅いからに決まってるでしょ。あとは、会社仲間と飲みがほとんどかなー」
色気も素っ気も無い、母さんにしてみたらえらい期待外れな返事をした。
(そうそう、そんな暇今の所全くなさそうだし、何より)
「あんなにひどい家事音痴じゃあ、寄って来る男なんていないんじゃねーの?」
普段散々こき使われている仕返しに茶々を入れてやると、すかさず姉ちゃんの冷ややかな反撃がきた。
「……何よ悠。あんただって、人の事言えないでしょ。男にばっかりモテて、彼女の一人も出来ないくせに」
「っな!……誰がいつ男にモテたっていうんだよ!」
「誰って、あんた以外他に誰がいるっていうのよ、まったく。男のくせに、毎日毎日」
ドスの効いた物騒な声で吐き捨てると、姉ちゃんは怖い顔をしてオレの座っているソファーに近づいてきた。
(……うわっ、暴力反対!大事な身内に、ドメスティック・バイオレンスはよくないですよ、おねえさま!)
反射的にクロスさせた両の掌を顔の前に翳してガードしていたオレの前をさっさと通り過ぎた姉ちゃんは、ソファーの横に置いてあったオレのスクールバッグを持ち上げた。
そしてオレが「あっ」と叫んだ時には既にチャックを開けて、鞄を逆さまにしていた。
―――ドサドサ、バサ、バサッ……カコンッ。
最後にちょっとまぬけな音を立てて、ペンケースが教科書やらノートやらと一緒に勢いよく落っこちてきた。
「……?」
意味不明な謎の行動をアホ面でポカンと眺めていると、姉ちゃんは床に散らばっていた本日頂いたばかりのお手紙の中から適当に一枚選んで手に取った。
更に、その手紙の所有者であるオレの了解も得ずに、封を躊躇いも無く切って中身を取り出すと、
『こんにちは、麗しの西園寺の姫君。突然ですが、あなたのことが大好きです。君は僕の理想のタイプそのものだ!僕はいつも美しい君のことを考えると夜も眠れず……』
突然それを朗読しだした。って、わああああ―――っ!
「やめろ―――っ!」
慌てて姉ちゃんから手紙を奪い取ると、力一杯、目一杯、持っている握力全てを使って、掌の中でグシャグシャに握り潰した。母さんはキョトンとした目でオレを見ている。
(何でよりによって、男からのいらん手紙を読むんだよ!
確かに約三分の二は男からだけど、残りの三分の一は女の子からなんだ!暇潰しのファンレターかもしれないけど、でもちゃんと、女の子から貰ったんだっ!しかも今日その中には聖女の子からの手紙だってあるんだぞ……!それを、読め、それをっ!)
羞恥で顔は真っ赤、息も絶え絶えのオレに更なる追い討ちをかけるように、姉ちゃんは二通目の手紙を取り出し、再び大きな声で読み上げた。
『1年5組、小原悠生様。あなたは僕の心の太陽だ。あなたがそこに存在するだけで、周りの空気が暖かく美しいものになり、僕の渇いた心に潤いを与えてくれる。あなたのいない学校生活はまるで……』
「わぁあああ!よせ、やめろ!やめてくれーっ」
オレの情けない制止の言葉を、
「ふん……」
と軽い鼻息一つで一蹴すると、姉ちゃんは手にしていた手紙をもう用無しだと言わんばかりに、ポイッと床に投げ捨てた。
(くうぅ、恐るべき、鬼姉め……!)
「こんなもの貰ってるくせに、偉そうなこと言っちゃって」
(うっせえ、貰いたくて貰ってんじゃないっつうの、オレだって!)
言い返したいのは山々だが、そんな事をしたらまたどんな恐ろしい報復を受けるかわかったもんじゃないので、心の中だけでこっそり反論する。
あーもうほんと、こういうのって一番家族(しかも女の母さんと姉ちゃん)には見られたくないものなのに……ガクッ。
「さっすが悠君。私にそっくりなお顔しているだけあって、男の子からもモッテモテなのねぇ!」
キャッキャッ、と子供みたいにはしゃぎながら両手を叩いて、ニコニコ顔の母さん。そこは母親として、喜んでいい所なのか……?そしてあの手紙の内容に一切動じてないっていうのも、どうなんだそれ。
「……男が男にモテても、ねぇ」
母さんのよくわからないフォローに、姉ちゃんはボソッと痛い所をツッコンだ。
(だから、モテたくてモテてんじゃないんだってば!)
お姉さまの逆鱗に触れないよう、オレは再び心の中だけで大きく否定した。
「……あら、これはなぁに?」
散乱した教科書の間からさっきオレがグシャグシャにした手紙と同じ形態のゴミ屑を見つけると、母さんは床に両膝を着いて皺を伸ばしながら広げた。
―――あ。そ、それはもしや!
「ちょっと、まっ……」
「…………」
(あー……遅かっ、た……)
さっきまでのご機嫌はどこへやら。母さんは一瞬にして、笑んでいた顔をサッと曇らせた。
「……悠君。これはなにかしら」
うわぁすんげぇひくぅい声……この辺りだけ低気圧が緊急発生。部屋の温度が一気に三度くらい下がった気が!
「なに、って、見ての通り学校のテストの答案ですが……」
不穏な空気をいち早く察知したオレは、なるべく波風を立てないように丁寧な言葉で慎重に伝えた。ひっそりと焼却場へ行く筈だった答案用紙の運命は意外な所で変わったらしい。
(こんなもの、さっさと学校で捨てとけば良かった……)
予想に反して、悪運の強いその紙屑を横目で恨みがましく睨みつけてみたけれど、既に後の祭りだ。
「え、なに?何点だったの?」
額に青筋を立てて母さんが握り締めていた答案を、横から覗き込んだ姉ちゃんは、
「……八点て、あんた相変わらず社会が致命的な出来だこと。よく毎回こんな点が取れるわねー。ある意味凄いわ」
と、可愛い実弟をフォローすることもなく、律みたいな事を言った。
「毎回って、悠君!あなたいっつもこんなひどい点数取ってるのっ!お母さん、悲しくって涙が出ちゃうわぁあ!」
(いやどっちかって言うと怒りで拳が出ちゃうわぁあ!って雰囲気ですけれど……)
母さんは少女マンガチックな外見通り性格も普段はいたって温厚で、かなりおっとりとしたタイプだ。だから滅多な事では怒らないけれど、昔から勉強に関してだけは、かなり厳しい人だった。
「確か八十点以下だとレポートを二十ページ分、三日以内に提出しないといけないんでしょ、このテストって」
「……何で姉ちゃん、そんなに詳しいんだよ。オレ、そんな話したことあったっけ?」
しかも、さっきはサラッと聞き流しちゃったけど『毎回こんな点』って、どうして答案を見せた事もない姉ちゃんが、そんなの知ってるんだ……?
「だって、律から毎回結果聞いてるんだもの。知ってて当然でしょ」
(はあっ?何だ、それ、って、いうか……)
「マジで?いつから聞いてたんだよ!」
「最初から。前回が七点で、前々回が九点……そうそう、確か期末テストは四点だったわね、あんた」
うわ、ガチで聞いてやがる。しかも過去最低の点数だった期末の分までしっかりと!
(おのれ、律め。余計な事を!)
「いくら苦手でも頑張って勉強すればさすがにもうちょっといい点が取れる筈だって、律が言ってたわよ、悠」
「そうよ悠君っ、律ちゃんを見習わなくっちゃ!」
(チッ、律め。本当に余計な事を……!あの裏切り者め!)
「いーよ別に。どうせ勉強したって大して変わんないし」
「そんな事ないわ!悠君、頭はいいんだからぁ。頑張って!」
(だから、他の教科はちゃんと頑張ってるじゃん……)
「何言ってんのよ、悠。やらなきゃいつまでたっても出来ないままじゃないの」
(自分だって、何度やっても家事上手くならないくせに……)
オレなりに言いたい事は色々あるが、二対一の圧倒的不利な立場では(一対一でも勝ち目ないけど……)何を言っても藪蛇だ。これはもう逃げるしかないと判断したオレは、表向きの大義名分を用意して自分の部屋に避難することにした。
「部屋で勉強してくる。夕飯用意出来たら呼んで」
そこかしこで床に散らばっている教科書や手紙をかき集めて、そそくさと自室に戻ろうとするオレに、
「……ちょっと待って、悠君」
ポヤヤ〜ンとしているくせに、妙に勘の鋭い母さんが、すかさず待ったをかけた。
な、なんですか、その笑顔……てか目が全然笑ってないんですけれど。やばいやばいぞ、凄く嫌〜な予感がする!
「もうすぐ夏休みよねぇ。良い機会だからお休みの間、家庭教師の先生頼むことにしましょう。ねっ?」
有無を言わせぬ怖い笑顔で母さんはとんでもない事を提案してきた。
「ええーっ!やだよ。そんなん、面倒だし」
「ああ、それいい案ね。どうせあんた自分から勉強しないんだから、強制的にやらされた方がいいわよ」
(おいおい、人事だと思って好き勝手いうなよなぁ……)
「律ちゃんが通ってる予備校がいいなって思ったんだけど、社会の授業は無かったでしょう?」
律が行ってる予備校は、確か文系コースが国・英で、理系コースが数・理の授業をそれぞれ週二回やっていて、社会の授業はやっていない。やっぱり社会は基本的に覚えるだけだから、教わるまでも無い科目という事なんだろう。
「いいよ。独学で何とかするから、そんなの頼まなくて」
「だーめ。あんた一人じゃ絶対やらないって。律もそう言ってたし」
「そうよ、悠君。律ちゃんの言う事は間違いないわっ!」
(あー、くそ、ばかりつ!お前のせいでオレの楽しい夏休みが奪われそうだぞ!)
「……とりあえず、その話は保留にしておいて。ご飯出来るまでちょっと勉強してくるから……」
完全に話を逸らすのは無理そうなので、とりあえずこの場を何とかして逃れるためにさっきと同じ言い訳を口にすると、母さんが。
「悠君。お勉強するならまず、その社会のレポート二十枚をやっちゃってねぇ〜それが終わるまで、ご飯はお預けよぉ!」
「…………」
いや、母さんではなく、鬼母が。
オレの夏休みだけでなく、本日の夕食及び睡眠時間まで、根こそぎ奪おうとしていた。
我が小原家には、デッカイ猫の皮を被った恐ろしい鬼が、二匹生息しています。
【ACT5】END