5【SIDE*Y】
After School
April 8
知ったばかりの事実に打ちのめされながら、オレは夢中で走っていた。今まで体育の授業でだって、こんなにも真剣に全力疾走したことはない。
(安齋がリナと付き合ってるって……いつからだ?俺がリナと別れてからか、それともオレと安齋が知り合う、もっと前?もしかしてオレ……ずっと安齋に騙されてたのか?好きだとか付き合いたいだとか、あれは全部嘘だった?からかわれていただけ?)
走りながらいくつもの疑念が頭の中をよぎった。
それを無理矢理振り切るように、行くあても無いままオレはただひたすら、走り続けた。
無意識に人のいない方へと足が動いていたらしく、気づいたらいつの間にか三階の一番奥にある、普段使われていない空き教室の前に来ていた。
ひとまずその中に入り、扉を閉めて、施錠する。
誰も入ってこられないように後方のドアにも同じように鍵を掛けて、その空間が密室になった途端、身体中の力が抜けて足元から砂のように崩れ落ちた。
「はあっ、は……っ」
ドアを背凭れにして座り込みながら、必死で深呼吸を繰り返す。だけど息が上がりすぎて呼吸が上手く出来ない。
脳に充分な酸素が行き渡っていないからか、物事を論理的に考える能力が著しく低下していた。
(……意味わかんね。ぜんぶ、なにもかも)
だけど唯一わかっていることがある。
それは安齋がリナと……自分が少し前まで付き合っていた元彼女と、今現在付き合っている、ということだ。
裏切りとしか思えないその事実が、鋭い刃になってオレの心をズタズタに切り裂いていた。その傷口から痛みが溢れ出して、猛スピードで全身を蝕んでいく。
「ハァ……」
呼吸が整っていくにつれて少しだけ気分が落ち着いてくると、さっき見た光景が頭の中で鮮明に浮かび上がってきた。
抱きつくようにして、安齋の腰に腕を廻していたリナ。
あの時オレは、自分が以前リナのことを本気で好きだったことも忘れて、その姿に激しく嫉妬していた。
『……勝手に触るな、そいつに』
自分以外の誰かが安齋に触れていることが、たまらなく嫌だった。すぐにでもリナを安齋の身体から引き剥がしてやりたかった。……あいつの事を、さも当然と言わんばかりに、気安く下の名前で「律」と呼んでいることも、すべてが気に入らなかった。
胸の内が真っ黒な霧に覆われたみたいにモヤモヤしていて、気持ちが悪い。あいつがオレ以外の人間と付き合っているだなんて、そんなの想像したこともなかった。
気づけばいつも傍にいて、隣で一緒に笑っていて、恥ずかしくなるような甘い言葉をあきるほど毎日囁いてきて、そんなのがもう当たり前みたいになっていたから、オレはきっと心のどこかで、安齋はオレのものだと勝手に思い込んでいた。
(どうしよう、嫌だ……)
……誰にも渡したくない。リナにも、自分以外の誰にも。
自分のことだけ見て欲しい。たとえ安齋がオレじゃない別の誰かを好きだと言っても、きっと諦められない。
絶対に、何があっても自分の傍から、離したくない―――
リナと付き合っていたときには全く縁が無かった、とても醜い身勝手な感情だ。こんな気持ちが自分の中にあるなんて、全然知らなかった。
こんな風になって初めて自分がどれほどあの後輩に惹かれていたのかを、強く思い知らされる。
「……小原先輩?そこに、いますか……?」
(―――!)
すぐ傍、扉の上方から名前を呼ばれて、心臓が大きく飛び跳ねた。扉一枚隔てた場所に、いつの間にか安齋が来ている。
オレは咄嗟に口元を手で押さえて自分の気配を殺した。
だけどこの部屋は普段鍵なんてかけられていないから、中に人がいるのは明白だ。オレがいる事を確信した安齋は、扉を開けて中に入ろうとしたけど、鍵が掛かっているのでドアはガチャ、と音を立てたきり、石のように動かない。
「……いますよね。鍵、開けて、ください」
走ってきたのか、少し乱れている息で安齋は言う。オレは床に蹲ったまま何も答えなかった。
「……どうしても俺の顔見たくないなら、ドアは開けなくていいから、そこで俺の話聞いてください」
(話……?今更なにを話すんだ?お前が本当に好きなのは、リナだって?)
――――そんな話、
「ききたく、ない」
「先輩……ごめんなさい」
(ごめんってなんだよ。なんの謝罪だよ)
「俺、先輩に隠していたことがあります。それを今から全部話します」
(だから聞きたくないってば。いいよ、もう)
「だけどそれを話す前に、これだけは言わせて」
(……やっぱりオレとは付き合えない?本当は好きじゃない?それとも……好きだけど、オレよりもリナの方がもっと好き?)
考えれば考えるほど、思考がどんどん悪い方へと向かっていく。オレはこれ以上安齋の言葉を聞きたくなくて、両手で耳を塞ごうとした。
だけど聴覚が閉ざされるよりも一瞬早く、安齋の声がオレの鼓膜を打ち振るわせる。
「俺が好きなのは、小原先輩だけです」
(―――!)
「オレのことが、好き……?」
どうも想像していた話と違うらしい。
オレは耳元の両手を下ろして、扉をじっと見つめながら、安齋の言葉に耳を傾けた。
「……はい。だから、どうしても手に入れたかった。どうしても……なにを、しても」
躊躇うように一旦言葉を切った安齋は、少しの空白の後、覚悟を決めたように独白した。
「……俺がリナと付き合っていたのは、先輩とリナを別れさせるためです」
「は……?」
(別れさせる……って、それで、安齋がリナと?え?なに?)
言われた事がどういうことなのか瞬時に理解出来なかったオレは「……それ、どういう、意味?」と、恐る恐る訪ねてみた。
「俺が先輩と初めて会った時、先輩はリナと付き合っていて、恋人一筋で他の人になんて一切目もくれないから、奪って、フリーにさせて、俺の存在を先輩に認めてもらうしか方法がないと思ったんです」
だからリナに近づいてオレ達が別れるように仕向けた……と、安齋はまるで悪びれた様子も無く堂々と口にした。
「……最低だな、お前」
「……そうですね。そう思います。俺は最低な人間だから、リナを騙すことに何の躊躇いもなかった。元々先輩と付き合ってる女≠チていうだけで、俺にとっては邪魔で目障りな存在でしかなかったから」
「でも……付き合ってたのは本当なんだから、少しは、その、情が湧いたり……とか、ちょっとくらい……好きになったり、とか」
「ないですね全く。情が湧くどころか一緒にいればいるほど、嫌い度が増していっただけで」
「……じゃあなんでオレがリナと別れた後もまだ付き合ってたんだよ?オレ達が別れてから、もう二ヶ月近く経つぞ」
「もし先輩が別れても、まだリナのことを忘れられなくて、またやり直したいなんてことになったら困るから。先輩の気持ちが完全に俺に向いたと思えたら、すぐに別れを切り出すつもりでした。……もしリナのことが知られても、先輩が俺のことをちゃんと好きになってくれた後だったら、過去の事は許してもらえるんじゃないかって……卑劣で打算的なことを考えていたんです。けど、まさかそれが今日になるとは、思ってもいなくて」
衝撃的な告白にオレは一瞬眩暈がしそうになった。
(それじゃあリナは完全に利用されただけ?)
……いや、勿論本人にも非があるからこういう結果になったんだろうけど……それにしても、先輩の彼女を横取りして、二股上等といわんばかりに平然とオレを口説いて、オッケーが出たら向こうはさっさと切り捨てて、こっちに乗り換えるつもりだったって?
しかもそれらは最初から全て、計画的に行われていた、と。
安齋の説明を要約すると事の全容はつまり、そういうことらしい。
(昼ドラの愛憎劇じゃないんだからさ……)
「……ほんっと、さいってー……」
一度目の時に比べて大幅に力を失った、二度目の『最低』の言葉が無意識の内に口から零れていた。
大事なことなので二度言いました、ではなく他に言うべき大事なことがみつからなかったので、仕方なくもう一度同じことを言いました……という感じだった。
「……うん。だから、ごめんなさい」
「ごめんなさいって、お前。謝ればいいってもんじゃ……」
「でも、好きです。先輩の事が好きすぎて、こんな酷い事しちゃうくらい……好きでしょうがない。こんな俺のことは、嫌いですか?もう、イヤになっちゃいましたか……?」
いつもの不遜な物言いは何処へやら、不安そうに窺う声音に、オレは不覚にも胸がズキリと切なく疼いた。
そんな風に言われたら、どうしたって心は揺らぐ。
(嫌いになんて……そう簡単になれないから困ってるんだよ、馬鹿)
上から目線でただ開き直られたら、きっと少しは想いも冷めるのに。素直に非を認めて謝罪された挙句、全ての行動の理由が「あなたが好きだから」なんて。
……縋るように許しを請われて、あなたが欲しい、と甘えるように求められてしまったら、こんな時ばかり年下の特権を目一杯行使してくる凶悪な確信犯に、オレがどうしたって勝てるわけがない。
(それに、こんなになってからじゃ、今更もう遅い)
こんなにもお前のことを好きになってしまったら、お前が誰と付き合っていようが、お前が男だろうが、後輩だろうが、そんなのは全然関係なくて……そこにある気持ちが本物なら、他は全部、どうだっていい。
(本気で好きになったら、性別も何も、全て意味がなくなる)
安齋に教えられた言葉が今、オレの心の中で偉大な言霊となって、鮮やかに甦ってくる。
(それに、今好きなのはオレ一人だけなら、過去の嫌な記憶なんて現在の幸福で上書きして、全部消してしまえばいい)
その思考こそが、安齋の策略に嵌められているが故の堕落の証なのだと、もうわかっているのに。
騙されて、嘘をつかれて、悔しくて悲しくて、胸が痛くて切ないけど。こんな事をされて、許せないって思っていても……それ以上にお前のことが好きで、お前が欲しいっていう気持ちの方が勝っちゃうんだから、もうどうしようもない。
(……オレも馬鹿だな)
こんな風に相手の仕掛けた罠に一々落ちて、周りの逃げ道を悉く塞がれて、相手の誘導するまま、疑いもせずについて行って。
―――そして気づいた時には、心まで全部奪われていた。
「先輩……?」
「……っ、」
安齋の呼びかけに答えようとしたけど、この気持ちをどう表現していいかわからない。
答えは既に決まっているくせに、後一歩を踏み出せないでいる素直じゃないオレに、安齋は根気強く言葉を掛けてくる。
「……小原先輩。好き、です」
鍵を掛けられて開かないこの扉と同じ、頑なに閉ざされてしまったオレの心を溶かす様に、甘く、優しく。
(今、どんな顔してる……?)
声だけじゃわからない。ちゃんと顔を合わせて、まっすぐ目を見ながら話がしたかった。今言った言葉が嘘じゃない事を、ここではっきり証明して欲しかった。
鍵を開けようか迷っていると、その逡巡を見破ったかのようなタイミングで「先輩、お願い。鍵を、開けてください……俺が好きなら」と真摯な声で懇願される。
(……降参。オレの負けだ)
重い腰を上げて、息を呑みながらドアの中央に手を伸ばす。スライド式のそれを思い切って上に引き上げると、ガチャ、と鍵が開く音がした。
開錠した途端、物凄い勢いで開いたドアから、教室の中に押し入るようにして入ってきた安齋に、正面から強く抱きすくめられる。
「あんざ――……ン……っ」
驚いて顔を上げると、斜めに顔を傾けた安齋が有無を言わせず俺の唇を強引に塞いできた。
「……ッン、は……」
重なった熱い唇と、抱きしめる強い腕。とてつもなく巨大な質量を持った気持ちのオーラが、そこから全部オレに向かって放たれているみたいだ。それはきっと千の言葉を交わすよりも、熱烈で雄弁な―――愛の告白だった。
「ァ……ッ、ま、って……も、息、できな……っ」
呼吸が上手く出来なくて、顔を左右に振って、落ちてくる口付けから逃れようとする。
だけど吐息を奪うように再び唇が重なると、開いた口から舌を差し入れられて、口腔内の粘膜を余す所なくなぞられた。
絡めとられた舌にも時折甘く歯を立てられて、表面の唾液を啜られるように、何度もきつく吸われる。
切羽詰まったような性急で激しいキスにオレはすぐに身体が熱くなった。
「……あ……」
とうとう足に力が入らなくなって、ぐったりと身体が地面に向かって沈んでいく。安齋は胡坐をかいて床に腰を下ろすと、その上を跨がせる様にしてオレを座らせた。
普段は見上げている顔が、今は自分の真下にあるのが少し不思議な感覚だった。切ない眼差しで俺をまっすぐ見つめている安齋は、どこか少し苦しそうな表情をしている。
(……そんな顔されたら、何も言えなくなっちゃうだろ……)
罵倒の一つも浴びせてやりたかったはずなのに、口が見えない糸で縫いとめられてしまったかのように、何も言葉が出てこない。
熱く見つめてくる瞳から、安齋の強い気持ちが伝わってくるのを感じる。オレは不意に泣きたいくらいに切なくなって、どうしようもなく胸が苦しくなった。
心の中で必死に塞き止めていた熱い想いが、枷を失って波のようにとめど無く溢れ出してくる。
(すき……お前が好き、だ……)
声には出さない胸の中のその言葉を表情だけで感じ取ったのか、安齋は嬉しそうに目を細めて、小さく微笑った。
「小原先輩……」
吐息混じりの囁きが耳に心地よく響く。
今度はそっと窺うように近づいてくる安齋の顔を、オレはただじっと見つめながら、再び重なった唇を静かに受け止めた。
さっきまでの激情は息を潜めたかのように、緩やかに表面を辿るような優しい口付けの雨が、無数に降り注ぐ。
(映画館でした時と同じだ……)
求め合う気持ちが重なった、甘いのに少しだけほろ苦いような、切ない痛みを感じるキス。
それは、あの日の帰りに二人で笑いながら食べた、キャラメルポップコーンの味にそっくりだった。
「……は……あ」
長かった抱擁がようやく終わりを告げる。名残惜しく口を離すと、ひどく甘い溜息が空気の中に溶けていった。
「……俺のこと、許してくれますか……?」
チュ、とこめかみに音を立てて口吻けられながらお伺いを立てられてしまえば、イエス以外の答えなんてもう、頭の中から出てこない。
それにこんな状態では、たとえどんなに口で「もう嫌いになった」「絶対許さない」と言っても全く説得力がないだろう。
(本当にお前には、何から何まで負けっぱなしだよ)
心の中ではそう白旗をあげていても、それを面と向かって認めるのは癪なので『あくまでも仕方なく』というスタンスを装って、降参の意を遠回しに伝える。
「……オレは一応お前よりも年上で大人だから、宇宙よりも広い心で許してさしあげるけどな……!本来ならこんなこと、絶対許されないんだからな!」
年上の矜持をここぞとばかりに主張すると、安齋はニヤ、という表現がぴったりくるような人の悪い笑みを浮かべた。
そしてついさっきまでのしおらしい態度は一体何処に行ってしまったのか、いつも通りの傲岸不遜極まりない物言いで、オレの発言を軽く往なしてくる。
「確かに年上ですけど……たった一歳の差で大人って言われても、ね?」
「一歳でも上は上だ、オレの方がれっきとしたお兄様だ」
「おにいさま……ああ、それいいですね。俺、先輩みたいなお兄さんが欲しかったな。兄弟なら毎日一緒に暮らせるし、血の繋がりがあれば一生縁が切れないし」
「オレはお前みたいな弟は、絶対いやだ」
「でも、実の兄弟だと血が繋がってるが故に結婚できないという弊害もありますよね。それにやっぱり学年は同じがいいから……兄弟じゃなくて、従兄弟の方がいいかも。同級生で、従兄弟同士……うん、いいな。最高ですね!」
「それのどこが最高なんだよ」
「同級生なら、先輩と同じクラスになれるかもしれないでしょう。学校でも毎日傍にいられるし、修学旅行だって一緒に行けるんですよ。しかも従兄弟なら、程よく血が繋がってるから、お互いのことを何でも把握出来そうじゃないですか。それに結婚も可能ですし、従兄弟同士だと!」
安齋は世紀の名案を思いついたと言わんばかりに、目を輝かせながら『同級生で従兄弟同士のオレ達』について、力説している。
(こいつ頭はいいはずなんだけど、たまに凄いアホだよな)
「……折角盛り上がってる所に水を差すようで、申し訳ないけどさ」
一人妄想の世界に浸っている頭の可哀想な後輩に、オレは年上の先輩らしく、極めて現実的な事実を教えてやった。
「従兄弟同士の前に、男同士は、そもそも結婚出来ないから」
「大丈夫、法律なんてあと五年もすれば変わりますよ」
「んなわけないだろ!アホか!」
「もし結婚出来なくても、愛を確かめ合うことは出来るから、問題ないです」
「愛を確かめ……あ、うって……え?あ!?」
安齋は不敵な笑みを口元に描くと、器用に身体を後ろに捻って、半分ほど隙間があった扉を全部閉めた。
(……そういえば今気づいたけど、ドアあけっぱだった……)
カチャ、という音が聞こえたと思ったら――――今度は、ドサ、という音が無人の教室に大きく鳴り響いた。
ちなみに前半のカチャ、は安齋がドアに鍵を掛けた音で、後半のドサ、はオレが安齋に押し倒された時の音……だったらしい。
気づけばオレの眼球は教室の天井を捉えていて、その視界がぶれそうになるほど近くに顔を寄せてきた安齋に……今日三度目となる、甘い口付けを与えられた。
*****
固い床の上に横たわったオレは、安齋の器用な手で素早くネクタイを取り払われた後、シャツのボタンも全て外されて素肌を外気に晒された。
「……っ、ちょ、ここ、教室……っ」
「誰も来ませんよこんな場所。もし来たとしても鍵掛けてるから、大丈夫です」
耳元に熱い息を吹き込まれながら囁かれて、背筋にゾク、と痺れが走った。くすぐったくて逃げるように身を捩ると、首筋に小さな痛みが走る。
「……ン……」
自分からは見えないけど、肌を強く吸われたから痕が残ったかもしれない。オレが抵抗しないのをいいことに、安齋は行為をどんどん進めていく。
(て、展開早すぎなんですけど……!)
内心動揺しまくっていると安齋はボタンが外されたシャツを下ろして、剥き出しになった肩にも痕が残るような口付けを降らせてくる。
一切躊躇いの無い一連の動作に、オレはつい『こいつ、此の手のことにすげえ慣れてやがるな……』と若干面白くない感想を抱いていた。
「肌凄く綺麗ですね……俺、ずっと先輩に、触りたかった」
夢見心地、という言葉がぴったりくるような声音で囁いて、オレの肌をとても大事なものに触れる様に優しく撫でていく。
「……っ、あ……!」
鎖骨の上を辿っていた熱い唇がふいに胸の一点を捕らえた。
唾液を絡ませながら舌で押しつぶすようにして舐められると、むず痒いような感じがして、何だか落ち着かない。
執拗に何度も刺激を与えられていくうちに、やわらかい小さな粒が芯を持ち始めた。
「……や……も、そこ、やめろって……」
女の子じゃないのにそんな所が反応してしまうのが恥ずかしくて、眉を顰めながら制止の言葉をかけた。だけど安齋は少し意地悪な顔で笑いながら、更にそこを攻めてくる。
「どうしてですか?感じてるくせに。もうこんなに、硬くなってる……」
少し強めに吸われながら優しく歯を立てられて、そのままそっと甘く噛まれた。ずきんと腰に痺れが走り、中の下着がじわりと染みを作ったのが湿った感触でわかった。
「……ン……っ!」
徐々に形を変え始めたものを制服の上から感触を確かめるように撫でられて、羞恥で顔が燃えるように熱くなった。
明らかに反応している事がわかると安齋は嬉しそうな声で「なんだ、先輩も結構その気なんですね、良かった」などと大変ムカつく事を言って、やんわりと弱い場所を擦りだす。
「……あっ、や、だ……そ、それ、」
「ん?ああ、これじゃあじれったいですか、もしかして」
「そ、そうじゃなくて……あ?」
退っ引きならない状態になってきたことに焦りを感じていると、チャックを下げて制服のズボンを下着と一緒に付け根辺りまで一気に下ろされる。素肌が外気に晒されて寒いはずなのに、熱をもった中心があつくて、苦しかった。
はあ、と乱れた息を吐き出すと、安齋は俺の脚を大きく開脚させてそこに顔を埋めてきた。
(うわああちょっと待て、それはまさか!)
「ひ、あ……っ!」
嫌な予感大的中。そのまさか、なことを安齋はこともなく平然とやりやがった。ヤメロ、と言う間も与えられず中心を口内に飲み込まれる。
「あ……っ、も、うそ、だろ……ッ、は、あっ……」
熱く濡れた感触に柔らかく包み込まれながら、根元を手でやんわりと扱かれて、体内に燻っていた熱が一気に上昇した。
(いきなりこれは難易度高すぎるだろ……っ)
先端を舌で刺激されながら口を上下に動かされると、今迄辛うじて喉の奥で押さえつけていた声が、食いしばった口の端から漏れていく。
「……っ、あ……っ、ッふ……」
同じ男だからコツがわかるのか、安齋の口淫は異様に上手くて碌な抵抗も出来ない。甘い刺激を容赦なく与えられて、オレは早々に音を上げてしまった。
「ァ……アッ、も、もう、やだ、はなせってば……っ」
「……だめ。気持ちいいでしょう、これ。先輩感度いいから、感じてるのが凄いよくわかる……」
くぐもった声で言いながら、安齋はオレを射抜くように見つめていた。その強い視線にも感じてしまい、快楽が一層増していく。
安齋はすぐそこまで来ている絶頂を促すかのように、口と手の動きを更に早めてきた。
「や、もうマジで無理……っ」
「ん……いいから先輩、このままイって」
(よ……よくない!でも、もう我慢もできない……っ!)
「あ、アァっ……、ン、……っふ、あ!」
ダメ押しとばかりに先端の割れ目にグリ、と舌をねじ込まれて、我慢しきれずに安齋の口の中で欲望を吐き出してしまった。快楽の余韻でヒクリと小刻みに小さく腰が震えている間も、安齋はずっと口を離さずにいた。
(す、すごかった……気持ちよすぎてやばかった)
脱力したままぐったりと身を投げ出していると、足元に辛うじて引っ掛かっていたズボンを全部脱がされる。
覆うものが無くなって心もとなさを感じる下半身のあらぬ所へ、突然指が差し込まれた。
「………!」
(ちょ、ちょっ、ちょっと待て……っ!)
「なななななにしてんのおまえ!」
「なにって……イヤだな先輩、しらばっくれちゃって。続きですよ。まさかこれで終わりなんて、思ってないですよね?これからが本番ですから」
(本番!?これで終わりじゃないのかよ?!)
「いやこれ以上はもう無理!キツすぎる!」
「……どっちかっていうとキツイのは俺の方だと思いますけど。このままの状態で帰るとか、いくらなんでも生殺しすぎですって……」
「う、あっ……」
安齋はオレの制止する言葉を無視して、後ろの奥まった場所に何かを塗りつけるようにして指を入れてきた。
そのヌルヌルする生ぬるい粘性の液体が何なのかなんて、恐ろしすぎて考えたくもない。
「ちょっと痛いかもしれないけど、そこは愛の力で我慢してください」
「はあっ?あい、の、力って、なに……っ、う、あっ、アっ」
無茶苦茶な難題をふっかけてきた安齋は、狭い蜜路を指で掻き分けるようにして容赦なく進入してくる。
異物感がとにかく半端なくて、オレはプライドを捨てて、情けない泣き言を漏らした。
「や……っだ、も、むり、できな……いっ」
「大丈夫、先輩は何もしないで楽にしててくれればいいから。ね、リラックス」
「こんな状態でホッと出来るか……!もうイヤだ!」
「先輩俺より大人なんでしょう?だったらこれくらい、我慢できますよね」
「一歳しか違わないから別に大人じゃないし!」
「さっきは全然違うこと言ってましたよ、もう忘れちゃったんですか」
そう言ってどこまでも悠然とした態度で事も無げに淡々と行為を進めていく安齋に、オレはヤケクソまじりに叫んだ。
「忘れたよそんなのとっくに!それよりなんでお前はそんな余裕なんだよ……!オ、オレばっかひとり、こんな、んじゃ、は、恥ずかしいだろっ?!」
「……余裕なんて全然ないですよ。目茶苦茶平気なフリして、必死で格好つけてるだけです」
「うそつけ」
「ほんと。先輩の声が想像していたよりもずっとエロいし、イッた顔はかわいいしで、もう俺本気でやばいから」
口元を歪めながら笑う顔が凶悪に色っぽくて、思わず目が釘付けになる。
(お前の方が百倍エロいだろ……!年下のくせに、なんだよその手馴れた感は!)
「……だからもう、挿れさせて」
「―――え?あ……ッ!」
半ば強引に指で慣らされた場所に、硬くて熱いモノが押し当てられた。感触だけでもはっきりとわかる質量のあるそれに驚いて、視線を下に向ける。
いつの間にくつろげたのかファスナーの開いたズボンから見え隠れしている安齋のそれは、自分の貧相なものとは全く似て非なるものだった。
(……っぎゃあああなんだそれ!そ、そそそそんな規格外のモン、はいるわけねえって!嫌、マジで無理!)
「やっぱ無理だ、駄目、嫌だ……っ!マテトマレストップ!ハウス!!」
顔面蒼白で後ずさってしまったオレの足を、安齋は素早く掴んで大きく広げさせた。
「ハウスって……犬じゃないんだから。今更止まれませんよ。車と男は急に止まれない、って知ってるでしょう?」
「そんな如何わしい格言聞いたことも無い!知らない!」
「格言じゃなくて、ただの経験談の一環です……って、確か以前にも同じようやりとりをしましたよね」
「どうでもいいよ今そんなこと……!」
「……っ、先輩、息、つめないで。ほら、力入れると痛いでしょう?ゆっくりでいいから、俺に呼吸合わせて」
「はあっ……、は、も、お前、注文多すぎだって!……あークソ、いってえ!」
「だいじょうぶだいじょうぶ。死んだりはしないですから、さすがに」
ああでももしかしたら別の意味で死にそうになるかも、と、安齋は世にも恐ろしい事を笑顔で嬉しそうに宣告してくる。
「や、やだ……!やっぱ痛い、も、抜けよ馬鹿……ッ、んン、あっ……」
「……っ、駄目。もうここまできたら今抜くほうが多分痛い。ちょっとだけだから我慢して、先輩」
(こ、これのどこがちょっとなんだ!?)
「がま、んでき、ない……!痛い……て、っも、なんでそんなにおっきいんだよ、あほっ!!」
「しょうがないでしょ、先輩がかわいいんだから。……ン、でもほら、少し、なじんで来た……」
グッ、グッ、と押し入るようにして力強く中に挿入ってくるものに内側を圧迫されながらオレは息も絶え絶えに訴えた。
「いつまで続くのこれ……もーオレ、死にそうなんだけど」
「先輩気が早いですね。死にそうになるのはまだこれからですよ?」
「……これ以上死にそうな目にあったらオレはもう耐えられそうにない……っ、あ、う、動くなよ……っ」
「……だって先輩の中、挿れてるだけですごい気持ちよくて、勝手に腰が動いちゃうんです」
ほら、と言って安齋は見せ付けるようにしてゆっくりと腰を卑猥に回してくる。その動きで中に挿っていたものの角度が変わった途端、さっきまで痛くて苦しいだけだった場所が未知の感覚を運んできた。
「……あ?……ッ、や、なに、」
埋め込まれている場所が徐々に緩んでいく。更にその奥へ探るように何度か深く侵入されると、明らかに感じる場所がそこにあるのが自分でもはっきりわかった。
「……見つけた。ここが先輩の一番弱いところですね」
隠されていた秘密をやっと暴いた、という風に不敵に笑った安齋は、それまでの遠慮がちな動きではなく、少し強引に腰を突き入れてきた。
「ああっ……!あっ、は、ああっ!」
さっきまで感じていた痛みがいつの間にか消えていて、安齋の大きなものがその場所へ出入りするたび甘い刺激がさざ波のように腰全体に広がっていく。
「あ……!っあ、そこ、や、だ、め……っン、あっ!」
「もう、痛いだけじゃないですよね?……っ、先輩、気持ちイイ、ですか……?」
ぐちゅ、と卑猥な音を立てながら、屹立が強弱を付けて浅く深く、交互に突き上げてくる。
痛みはなくても粘膜を限界まで開かされているから、圧迫感はまだあって苦しい。でも腰を上下に動かされると気持ちよさの方がどんどん大きくなっていって、身体が燃えるように熱くなっていく。
「やだ……ッ、もう、ばかあほぼけ、安齋のおおうそつき!ン、ん……っこんなん、きいて、ない……っ」
「……っ、なにが、ですか」
「だって、こ、こんな……」
好きな人と二人で抱き合う事が、こんな風に、こんなにも凄いだなんて知らなかった。相手は年下で、しかも男なのに、身体中熱くて、泣きたくなって、死にそうなくらい気持ちがよくて……頭の先から足のつま先まで全部、安齋のことしか考えられなくなっていく。
物凄く恥ずかしいのに、嬉しくて、胸が一杯になる。
「ねえ先輩……これ、イイ?俺とするの、感じる……?」
「ふ……アァ……っ、い、あ、ああッ、きもち、い、あっ、アァ、ン……っ」
首筋を緩く噛まれながら両の乳首をきゅっと摘まれて、一際大きな声が口から零れる。気持ちよすぎて、下半身がどろどろに溶けてしまいそうだった。
「ん……ッ俺もすごい、気持ちいい。ずっと先輩と、したかったから……俺、何度も先輩とヤッてる想像して、抜いてたんだけど……やっぱり実物は、断然いいな……すごいここ、熱くて、濡れていて、俺のこと、やわらかく締め付けてくる……かわいい」
「……っ!な、い、いやらしいこというな!へ、へんなことにオレをつかってんじゃねえよ……!」
「だって好きな人のことを思い浮かべてするのが一番気持ちいいんだから、仕方ないでしょう?……っ、でも本物はその、何百倍も、いいですけど、ね……っ」
一際大きく中を突き上げられて、ずっと触れられていなかった昂ぶりを手で扱かれる。前後から交互に刺激されて泣きそうなくらい気持ちが良かった。
「あっ、アァっ……」
ガクガクと揺さぶられながら両の掌にぐっと力を入れて握りこぶしを作っていると「……手、こっち。俺のこと、抱きしめてください」と背中に腕を廻すように促された。
言われるがまま安齋の広い背に手を回してしがみ付くと、貪るような激しい口付けが落ちてくる。
「んン……っ、ん、ふ……っ!」
こじ開けるようにして強引に入ってきた舌に口腔内を掻き回されて、口角から透明な雫が一筋流れ落ちていった。
「ん……」
安齋は唇を一旦オレの口から離すと、唾液の跡を辿るように顔から首元へと舌でゆっくり辿っていく。時折歯を立てて肌の感触を確かめる仕草が獲物を吟味している獣のようで、見ていて、ぞくり、と背筋に震えが走った。
口付けが鎖骨まできた時、跡を残すように強く肌を吸われながら、中の一番感じる場所を硬く逞しいもので下から激しく突き上げられる。
強烈な快楽が身体を駆け巡り、恥知らずな喘ぎ声が室内に大きく響いた。
「……っ!いやあ……っや、ア、んっ!ひ、ああっ!」
「小原先輩、好き、です……、もう、頭おかしくなるくらい、好きで好きでたまらない……ッ」
「ば、か……っ、あぁ……っ!も、そこ、やだあ……っ」
安齋の腰が上下するたびに下の方からぐちゅっ、ぐちゅっ、と卑猥な水音が耳を打つ。
「ん……先輩のナカ、すごいとろとろ……そろそろ、やばい、かも、俺……っ、はあ……っ」
耳元で掠れた色っぽい声であまく囁かれて、耳朶を少しきつめに噛まれた。
安齋の欲に濡れきった荒々しい吐息が首筋を撫でるたび、腰に甘い痺れが電流のように駆け巡る。
「あ!ああ……っ!あっ、あっ!!」
激しく甘く腰を打ちつけてオレを更に追い詰めながら安齋は乱れた息で問いかけてくる。
「……ッ、せん……ぱい。小原、先輩。俺の、こと、好きです、か……っ?」
(なんでこんなときにそんなこと聞くんだ!そんなん言える余裕もう残ってないってば! )
「し、しらな……っ、あ、ンっ」
「ちゃんと言葉にして。先輩も俺のことが好きだって……、言ってくれなきゃ、このままずっと終わらせない」
だから、ね?と、艶っぽい目つきで唆しながらいやらしい腰つきで、奥を容赦なく突き上げてくる。グチュ、と奥深い所を突かれると気持ちがよすぎて声が我慢できない。
(こいつ、普段もちょっとそうかもと思ってたけど……絶対エスだろ……!しかも真性のドがつく、隠れエス!)
くそ、後で覚えてろよ!と心の中では勇ましく啖呵を切ったものの、現実のオレは早くも身体が限界にきてしまい、泣きそうになりながら請われるまま「好き」と何度も口にした。
「あ、す、好き……っ、アァ……っ! 」
「ん……俺も、好き。こんなにも誰かを欲しいと思ったのは、小原先輩、だけ、です……っ」
「アっ、んンっ!も、や、め……ああッ!」
「先輩……もう、イキそう?」
「あ、ン……っも、でる……ッ」
「もう、ちょっと……ッ先輩、このまま、いい、ですか?」
(この、まま?……ああ、外じゃなくて、中に、ってこと?……もういいよ好きにしろ。それよりも早く、早急に火急にさっさと終わってくれ!)
「いい、もう、いいか、ら……っ!アっ、は、はや、く……あっ、アッ……!」
「……ッ、はやく、とか、そんな色っぽい声で煽るような事、言わないでくださいよ……ッ」
「あお、る?……って、なに、が、アっ、アァ……ッ!」
わけがわからなくなって、半泣きの状態で聞くと追い打ちをかける様に腰を大きく揺さぶられた。
もう無理だ、と思った瞬間、耳元で艶のある低い呻き声がして安齋の身体が一瞬弛緩した後、中に熱い飛沫が勢いよく叩きつけられた。
「……っは、あ……先、輩……ッ」
(う、わ……っ、なにこれ、すご、あつ……い……っ)
「あっあ……っや、イクッ……!」
未知なる感触に身体中鳥肌が立つほど感じてしまい、オレは追躡するように触れられてもいないまま二度目の精を吐き出してしまった。
だけど快楽の余韻に浸る間も与えられず、安齋は突き上げるようにして再び腰を何度も動かしてくる。そのたびに中で熱い体液が放たれているのが如実にわかった。
「……ッ、ちょ、もう、な……にッ」
せっかく終わったのにまた身体に火が点いてしまいそうで、もうイヤだ、と安齋の身体を押し返そうとしたら、すかさず貼り付けにするような形で両手首を強く床に押し付けられた。
「……っん、ごめん。もうちょっとだけ、我慢して、先輩。全部……中に、出させて……ッ」
掠れた甘い声で耳元に囁かれて、グっと腰を奥まで深く突き入れられる。宣言通り最後の一滴まで中に全部注がれた。
「ァ……ん、……ハァ……っ、ああ、や……っ」
ぎゅっと身体を痛いくらいに抱きしめられて、慰撫するような優しい口付けが落ちてくる。
「……ン……」
ようやくお互いの呼吸が整ってきた頃、身体ごと力強く抱き起こされて、最初の時のようにオレが安齋の膝の上に乗っかる体勢になった。
下半身からグチュ、と濡れた音が聞こえてオレが真っ赤になっていると、安齋は湿った自分の前髪を色っぽい仕草で掻き上げながら、オレの唇を舌で味わうように舐めて、吐息を深々と漏らした。
「……ハァ。すっごいよかった……けど、やっぱり一回じゃ全然足りないな……」
額に汗を浮かべながら笑顔で恐ろしい事を言われて、オレは嫌な汗が自分の背中をツーッと一筋流れるのを感じた。
「……は?!ちょ、もう、嘘だろ?!満足だろ?こんだけ、ヤったんだから……!」
「心は満足だけど身体はまだ全然不満です。俺、先輩よりも若いんで」
「オレと歳一つしか違わねェくせに何が若いだ!オレはもう、帰る!」
「そうですね、帰りましょう。速攻帰って、先輩の家で続きしましょう」
「しねーよ!早くシャワー浴びたいっつうの」
「じゃあ一緒にお風呂はいりませんかせんぱ……いって!」
アホな事をぬかしている後輩の頭にバシンと一発制裁を加えたオレは、重い身体に鞭を売って身支度を始めた。
あらぬ所がズキズキ痛むけど、悠然と知らない振りをする。
「……一緒にシャワーはともかく、飯は何か作ってやるから。早く帰るぞ」
「……はい!」
手早く後始末をして、よれよれになった制服を身に着ける。
廊下に誰もいないことを確認してこっそり教室を出ようとしたら、安齋がオレの左手に自分の右手をするりと絡ませてきた。
「もう恋人候補の時間は終わったから、いいですよね?」
「……人がいないところ限定で、なら」
照れながら控えめに譲歩すると安齋は嬉しそうに微笑んだ。そのまま熱く見つめ合い、恋人同士の幸せな口付けを交わす。
堅く繋がれたオレ達の右手と左手には、お揃いの腕時計が二つ仲良く並んでいた。
それは昨日までの甘い恋人候補期間が終わりを告げ、甘すぎる本当の恋人期間が今から始まったことを意味する―――オレ達二人だけの、秘密の証だ。
【END】