【ACTXX】Unconscious Mind side R R18

始めは偶然かと思っていたけど……でもほら、また今も。

(―――やっぱりそうだ)

さっきからずっと視線を感じていたけど、気のせいではなかったらしい。

 

 

俺は昔から様々なタイプの人間に多くの秋波を送られてきた。

そのせいか、自分に向けられる視線や眼差しといった感覚的なものには、過信ではなく人一倍察する所があるし、常日頃から慣れている。

しかしながら今俺がいる場所は男子校であり、普通に考えればそういったものからは縁遠い環境であるはずだ。

―――ただ一人、血の繋がった我がいとこである、最愛の恋人を除いては。

見られていることに気づいたのは、五時間目の体育の授業が始まってから十分も経たない頃だった。

……授業中にもかかわらず、幾度となく熱心に送られてくる視線を、顔色一つ変えずに素早く目で追う。

案の定、視線の先にはどこか不安そうな表情で、何か言いたそうに俺をじっと見つめている悠生がいた。

しかし目があった途端、慌てたように顔を逸らして俯いてしまう。そして数分も経たないうちに、すぐにまたちらちらとこちらの顔色を伺うようにして、気にしている素振りをみせる。

どうも様子がいつもと違う。というか、明らかにおかしい。

 授業にしても運動全般が好きなこいつには珍しく、今日はどこか身が入っていないというか、始終上の空でいるようだった。

足の着いていない悠生の態度をいち早く察知したらしい章太が俺の隣にやってきて、

「先生〜?悠ちゃん、さっきからずっと先生のこと気にしてるみたいだけど、どうかしたの〜」

と、世間話をするようにのんびりとした口調で訊いてきた。

事、悠生に関しては俺に負けず劣らずの観察眼を持つこいつのこういう所は、中々侮れないなと少し苦い気持ちで思う。

一呼吸おいて、

「……なんだろうな。俺もよくわかんないんだけど?」

実際本当にわからなかったので正直に言うと、章太はまるで容疑者を見るような鋭い目つきで俺を一瞥した。

「……せんせい。あんまり悠ちゃんを困らせるような悪戯しちゃ、駄目だからね?」

章太はいつもの食えない笑顔で、念を押すようにしっかりと釘を刺していった。

(……やっぱりさっきの更衣室でのアレ、見られてたな)

我らが西園寺高校のアイドルである癒しの姫君に困らせるような悪戯≠最近頻繁に俺が仕掛けているのを、お付よろしく常に傍にいる聡い章太がわからないはずもないか、と嘆息する。

そして実の所、ただの気まぐれやお遊び半分でしている小さな悪戯と見せかけて、あからさまに性的な触れ合いを意識させるようなことを周囲への牽制≠ニいう明確な意図を持って、ワザと人前でしているのだという事も、先ほどの含みのある言い方からして気づいているに違いない。

しかしながら、肝心要の当事者本人はきっとそんなことは考えもしないのだろう。

昔からそれこそ俺と同じくらい……いや、時と場合によっては、というか相手によっては(特に同性の場合)俺以上に数多の人間から思いを寄せられてきたはずだ。

だけど不思議とそれに反するように恋愛ごとには驚くほど鈍感で方向音痴な所がある。その上自分に向けられている周囲の目にもまるで無頓着だ。

ゆえにそこに在る沢山の人間の想いや、その他諸々の複雑な事情など、何も見えていないのだろう。

 気づかなければそのまま通り過ぎてしまうような事でも、一歩足を踏み込んでみれば厄介なことに巻き込まれる可能性もある。だから本人に自覚がない分、必要以上に目を光らせ、自分以外の人間を一定の距離から先へ立ち入らせないように無言の防波堤を張り巡らせてしまう。

それは過保護というよりも、もっと単純に言い切ってしまえば、ただどうしようもなく好きで、いつまでも独り占めしていたい、誰にも渡したくない、と日を追うごとに増していく強い気持ちがあるからだ。

悠生が関わること全てにおいて、自分が今までにないほど狭量な心の持ち主になっていることは十二分に自覚しているつもりだった。

けれど、言いたくても言えず、どうにかしたくて、でも何も出来ずに苦しい想いを抱えていた頃と違い、色々なことが許された立場になった今では、遠慮する必要もない。

 出来る限りの手を使って、これからも自分達にとって不安要素となるもの全てを一つ残らず排除してやるつもりだ。

それが楽しくもあり、また苦労でもあるところなのだけど。

今、この時だけ、という刹那的なものでなく、もっと先の未来まで全てを手に入れたい自分にとって、怠惰な余裕や半端な躊躇いはきっと無用の産物だ。

 

 

*****

 

 

「……」

相変わらず目が合っては、逸らし、そして何か言いかけては、それを止め、の繰り返しを続けている悠生を、あえて見ない振り、気づかない振りをしながら適当に授業をやり過ごす。

気にならないわけではないけど、今すぐに、たとえば適当な理由をつけて授業を二人で抜け出すことは簡単だったが、そこまでする必要もないだろう。

基本的に悠生は嘘がつけない性格だ。しかも喜怒哀楽がはっきりしていて、考えていることの大半は本人が意識してのことなのか、そうでないのか(おそらく、後者だろう)表情に出るし、わかりやすく態度にも表れる。そして思い込んだら一辺倒、何か気になることがあるとそれを解決するまで、ずっとそのことに捉われてしまう傾向がある。

多分今もなにがしかの原因があって、心の中はそのことだけで一杯なのだろうことは容易に窺える。

これがもし自分たち二人以外の誰か、つまり第三者に関係することならば、とても見過ごすことは出来ないが、その元凶たる所以が自分らしいことはほぼ間違いなさそうなので、別段問題はないだろう。

送られる視線の意味をすぐに問うことはせず、このまま様子を見ながら放課後まで待つことにした。

―――はずだったのだけれど。

「律、ちょっと話あるんだけど!」

事態は思っていたよりも少し早めに動いた。

次の授業が終了するまで待ちきれなかったのは悠生の方だったらしく、適当な空き教室に俺を連れて来て、何を思ったのか突如服を脱がせるという、およそらしくもない行動に出た。

流石に驚きはしたものの、常に欲してやまない恋人から据え膳を差し出すような真似をされて、当然悪い気はしない。 

意味はよくわからないが、自分にとっては都合がいい展開だと頭の中で不埒なことを考える。

シチュエーション的にもなかなか悪くないなと、俺は思わずほくそ笑んだ。

しかしそれを嘲笑と受け取ったのか、眉間に皺を寄せて口を盛大なへの字に曲げた悠生に、宣戦布告だと言わんばかりに指を突きつけられた。

アレはどういうことだとか、説明云々だとか、意味不明なことを捲くし立てられ、答えを追求される。

その時まだ状況を読めていなかった俺は、どうもお姫様はご機嫌斜めらしい、苦情はあとでゆっくり聞けばいいか。と、ひとまず勝手にその話を後回しにする。

不可解な行動や言葉の意味を考えるよりも、今は目の前の恋人と有意義な時間を過ごす方が大事だった。

「……っあ……っ……、り、律……っ」

どんな理由があるにせよ、誰も来ない鍵のかかった密室で二人きりになること事態、誘っているのかと誤解されても仕方のないことだと知らしめるように、強く抱きしめる。

記憶の中の快楽を引きずりだすように強引に口付けると、少しばかりの抵抗と多分に従順な反応が返ってくる。

形のよい小さめの薄い唇は、まるで砂糖菓子のように甘く、ただ触れているだけでも痺れるような疼きを齎して来る。

もっと深い所まで交わりたくて、奥にある綺麗なピンク色をした舌を自分のそれで探るように絡めとろうとしたら、丁度その時、これ以上先に進むのを阻むように授業開始の鐘が鳴り響いた。

しかし薄目を開けて窺った悠生の表情から、チャイムの音に全く気づいてないことは明らかだったし、授業に行く気なんて露ほどにも残っていなかった俺は、そのささやかな警告を綺麗に無視した。

 

 

*****

 

 

「……っん、ふ……っ」

口の中を侵略するように激しく舌を出し入れしたり、ゆっくりと焦らすように柔らかな粘膜を舐め擦る。抵抗は既に無く、力の入らない腕で小さく震えながらしがみ付いてきた。

抱きしめる力を強くして崩れ落ちそうになる身体を支えてやり、柔らかな舌を食むようにして吸い上げると、息継ぎする時に出来る隙間から吐息と共に艶のある声が僅かに漏れてきた。

甘い声に誘われるように更に深く舌を入れて自分の唾液を差し出すと、子猫のように目を細めて必死にそれを飲み下そうとする。

その姿がとても可愛くて、内側で燻っていた危うい情動が狂おしい熱を灯し、愛しさが胸の内を吹き荒れる。

昨日もバスルームへ半ば強制的に連れ込んで散々抱きつくしたはずなのに、一日たっただけでもう、身体は飢えた獣のように恋人の甘い肢体を浅ましく欲しがっていた。

 腕の中で半ば朦朧としたような様子の悠生に、目線だけで今からすることを伝えると、性急に服を脱がして肌に触れる。

「……っ……ぁ……」

 露になった首筋に舌を這わせたところで、それまでおとなしくしていた悠生が急に行為を拒絶するように身体を離して、何事かを懸命に訴えてきた。

ここまできて今更お預けなんて冗談じゃない、と舌打ちしたい気分で不機嫌を隠さずに理由を問えば、

―――怒ったり驚いたり真っ赤になったり、青くなって落ちこんだり。

 目の前で忙しなく一人百面相を繰り広げてくれる。

くるくるとよく変わる豊かな表情に軽く見惚れながら、俯いてしまった悠生の手を引いて、再び腕の中に捕らえた。

ボタンが全て開けられたシャツから覗く、すべらかで白い肌に早く触れたくてたまらない。

欲望を宿した低い声で『抱きたい』という部分を殊更強調するように耳元に囁きながら、この行為の正当性を高らかに主張して、赤く染まった耳朶に緩く歯を立てる。

「……っ!」

抱きしめた悠生の身体から、明らかに快楽を示す反応が表れ始めた。恥じ入るように身じろぎしながら頬を染めて俺のシャツを握り締めてくる姿に、目が眩むような欲情を掻き立てられる。

逸る気持ちを抑えて、耳の裏側の柔らかな皮膚を一舐めすると、首筋の感じやすいラインをねっとりとした卑猥な舌使いで辿り、弱いわき腹の辺りを優しく撫でていく。

「……んっ」

熱を散らすように何度も息を吐きながら、唇を噛んで声を漏らさないように耐えていた悠生が「―――それなら、その首にあるキスマークはっ……何なんだよ!」と潤んだ目で必死に言ってきた。

(……どういう意味だ?)

言葉の真意がわからず同じことを聞き返してみたが、どうも会話が微妙に噛み合っていない。

話をしながらも手の動きは緩めずに、ゆっくりと、でも確実に性感に響くようなやり方で感じるポイントを狙って、官能の淵へ追い詰めていく。

その間、切れ切れになる言葉を聞いていくうちに、やっと悠生の言っていることがわかってきた。

―――今日の一連の出来事の発端は、このキスマークにあるのだと。

(誰がつけたかなんて、そんなの決まってるのに)

しかも、まだたったの一日しか経っていない(正確には、二四時間も経過していない)昨日のことだ。

何故そんなことを訊くのか疑問に思ったが、本当に覚えていないのか、痕をつけた目の前の張本人は全くわかっていないらしい。

……それで自分以外の誰かがこの痕をつけたはずだと思い込んで、俺の不義理を問いつめるために、わざわざこんな所に呼び出したというわけか。

(なるほどね……そういうこと)

謎だった行動や言葉にようやく合点がいった。

不安そうな顔をして見上げてくる腕の中の恋人に、憐憫を誘われるよりもむしろ嗜虐的な欲を抱いてしまって、少し意地の悪い気持ちになる。

昨日の今日だからそれなりに手加減してやるつもりでいたけれど、都合の良いことに、その必要もなくなった。

なぜなら疑いを晴らすためには、今この場で証拠を見せるのが一番良いからだ。

これからしようとしている不埒で淫靡な行為に、随分と合理的な名目がついてくれたものだ。

物騒な笑みを浮かべながら、俺は邪魔な上着を脱ぎ捨てた。

「だ、だって……っ……っあ……待てって、ちょっと……」

本気で浮気を疑っているからなのか、中々素直に身体を預けて来ない悠生に、卑猥な愛撫を仕掛けて強引に口を割らせる。思った通り、このキスマークを見てそんな馬鹿なことを考えていたらしい……まったく。

もし一彦や朔哉がこの事を知ったら、絶対にありえないと大声で笑い飛ばしたに違いない。悠生命と公言している章太は、逆に波風が立つのを面白がって肯定するかもしれないが。 

俺がどれほど激しく強い気持ちでこいつの事を想っているのか、きっと周りの人間の誰よりも、悠生本人が一番わかっていないのだろう。

無知は罪、とはよく言ったものだ。

ただこの天然記念物並みの鈍さにはある意味救われている面があるし……恐らく、一般的に見れば欠点に映るそんな馬鹿なところも、また愛しく思えてしまうのだから、自分も大概どうしようもない男だと思う。

他人からすれば惚気にしか聞こえない事を頭の隅で考えながら、ポケットにハンカチがあるのを一応確認して、悠生からも同じものを許可なく奪い取る。

すぐさまその用途に気づいたらしく、半ば快楽に浸りながらも、やれ場所が気になるだの、授業が始まるだのと、無駄な悪足掻きをしてきた。

たかがこの程度の制止の言葉を並べ立てられたくらいで、今更止められるわけがない。

言い逃れは全て却下、何を言われても聞く耳を持たずにいたら、拗ねた子供みたいに頬を膨らませてしまった。

(―――そんな顔したって、可愛いだけなのに)

宥めるように頭を撫でてやりながら、こっちを向かせて視線をぴたりと合わせる。そのまま悠生の目を真っ直ぐ見つめながら、熱く滾った欲を制服越しに押し付けて、こんなにもお前が欲しくてたまらないんだ、とストレートに劣情を示してやれば、顔を真っ赤に染めて逃げるように腰を引いてしまった。

少し怯えた顔がまたそそるな、なんてろくでもない事を考えながら、表面上は笑顔を取り繕って、逃がさないように華奢な身体を腕の中に閉じ込める。

気にしている首筋の痣の真相を報酬代わりに抵抗や拒絶の一切を封じた俺は、『論より証拠』と、愛しの姫君に極上の口上を述べた。

少し困ったような顔をした悠生が「どういう意味だ」と問う前に、言葉はもういらない、と軽く諌めて唇に触れる。

ここから先は、全て身体で教えてやるから―――心の中で呟いて、嵐のような激情をぶつけるように、激しく口付けた。

 

 

*****

 

 

四方を背の高い棚で囲まれた薄暗い部屋の中央には、閲覧時に使う机が一つ置いてあり、その周りには簡易式の折りたたみ椅子が数個鎮座している。本来ならばここは勤勉な学生達が様々な知識を得たり見聞を広めるために使う部屋だ。

しかし今、この室内で行われているのは、理知の探求ではなく、蕩けるような甘い快楽を本能のままに貪る淫らな行為だった。

「……っ……ァ……ッ」

舌と指で感じる所を重点的に攻めながら、少しずつ身体を拓いていく。

淫蕩な欲を乗せた舌で辿る肌は滑らかで、同じ性を持つ者とは到底思えない。透き通るように白く、まるで踏み荒らされていない真冬の深雪のようだ。見るたびに、いつまでも綺麗なままにしておきたいと思う反面、誰の目にも明らかな消えない痕を付けて、全てを自分の色に染めてしまいたいという、二律背反の思いがめまぐるしく鬩ぎ合う。

しかし結局はいつも後者の気持ちが勝ってしまって、己の欲望のままに余す所なく白地を汚し蹂躙の証を刻み込んでしまう。

愛しい者を手に入れることの甘い幸福感と、歪で傲慢な優越感が同時にやってきて、他の人間ではとても得られない、 

深い快楽や安らかな充足を、心と身体全てで実感することが出来る。だから奪うように何度も抱いて、執拗に所有の印を残してしまう。

「ん……っ……は、ぁっ……」

乱れてきた呼吸と、高まる鼓動。

熱い肌と途切れ途切れになる声が、陥落まであと僅かな事を言葉よりも雄弁に伝えてくる。押し殺したあえかな声に、腰の奥が痺れるように熱く疼いた。

もっと、引き返せない所まで早く連れて行ってしまいたい。そして己を求める欲に濡れた蜜のように甘い淫らな声が聞きたい。自分だけが見ることを許された、本能をさらけ出した素のままの顔を今すぐ暴き出してやりたい。

獰猛な衝動を僅かに残った理性で何とか抑えながら、決して乱暴にならないように触れていく。

今まで誰を抱いても、こんな風に自分を抑えられないほど欲しくなってしまうなんて一度もなかった。

唯一、痛みを残した苦い過去の記憶の女でさえ、こんなにも強く求めたことはない。

好きだと、自分だけのものにしたいと自覚した頃よりも、実際にそれが実現して、腕の中に捕らえてからの方が恋情はより激しさを増していった。正直自分の欲求の強さに戸惑うことすらある。

天然で鈍い悠生は全く気づいていないが、どう見ても自分に分が悪いこの恋の主導権は、常にこいつが握っている。

だからせめてこんな時くらいは、身体だけでももっと自分を欲しがらせて、俺のこと以外何も考えられないくらい溺れさせてやりたかった。

「……んっ……」

肌質を味わうように首筋からじっくりと舌で舐め上げて、辿り着いた小ぶりな淡い突起を舌で数度つついてやる。そのまま歯で扱くようにして口に含み音を立てて啜ると、赤く色づき硬くたち上がってきた。

唾液で濡れて光る二つの尖った頂を強く吸い上げるたび、ぴくりと身体が小さく震える。

暫くの間声を噛み殺すように頑なに口を結んでいたが、下着の上から昂ぶった欲望の証を緩やかに撫でてやると、堪え切れなかったのかはっきりとした嬌声が口から零れた。

「……あっ……あぁ……っ!……ん……っ……ぁ」

押さえた口元からくぐもった喘ぎ声を漏らして、震える腕で俺の背に手を回してしがみついてくる。

(あと、もう一押しだな……)

とどめを刺すように下着ごと一気にズボンを足元まで引きずり下ろした。今度は直に触れて、先端から溢れた透明な先走りの液を指に纏い、強弱をつけながら上下に扱いた。

すっかり頭を擡げていたそこはすぐに反応して、掌の中で大きく育ち蜜を溢れさせる。 指を動かすたび、ぐちゅりと濡れた音が響いた。

与えられる刺激にとうとう身体に力が入らなくなったのか、足元から崩れかけた悠生の腰に片手を回して支えてやる。

「……立ってるの、もうつらい……?」

「……っ……ん……ぁ……っ、う、ん……っ」

息を乱しながら答える悠生を、人が寝るには少し狭いが(元々机とはそういう用途に使われるものではないから、当然といえば当然だ)小柄なこいつ一人が座るくらいなら充分重さに耐えられるだろうと、机の上に乗せた。

片足にかろうじて脱ぎかけのズボンが引っかかっているだけの素足を無理矢理大きく開かせ、その間に自分の体を割り込ませる。

蜜を垂らして刺激を待っている陰茎を再び卑猥な手つきで弄れば、俺の身体を挟み込むようにして、両足をいやらしく絡ませてきた。手の動きに合わせて無意識に腰をゆらゆらと上下に振りながら喘ぐ姿はとても扇情的で、見ているだけで激しく興奮してしまう。

「……あっ……ァ……あぁ……っ……んっ…ァ……っ」

いやらしく濡れた水音と、溢れ出した艶のある声が暗く狭い室内に反射して響き渡り、空気が一気に湿りを帯びた淫らなものになる。

「……っ……あ、も……っ、り、りつぅ……っ!」

更衣室で悪戯に爪を立てた鎖骨の窪みを強く吸い上げながら、手の中で熱く脈打つものを吐精を促すように強く擦りあげた。

絶頂はすぐに訪れ、二・三度身体を小さく震わせて、白濁の液体を勢いよく吐き出す。手の中のそれは昨日も出したせいかサラリとしてあまり粘りがなく、量もそれほど多くなかった。

「……っ……あっ……はぁ……っ……」

熱を吐き出して忙しなく呼吸を繰り返している悠生の背中を宥めるように撫でてやる。

上気した肌が桜色に染まり、潤んで濡れた瞳や熱を持った甘い吐息が、艶かしくて色っぽい。

「……すっごい、エロい顔……」

思わずその媚態に感心して呟けば「……っ!なん、だよ、それ……っ、おおお前の方がよっぽどエロいだろ、馬鹿!律のエロ!エロエロエロ!!あほっ!」と、元気よく罵詈雑言を俺に浴びせた。

怒っているというよりも照れ隠しで言っているだけなのがまるわかりだから、こんな風に罵られても、ちっとも腹がたたない。むしろ、かわいくてしょうがなかった。

「はいはいすみませんね、エロで。……褒めてるんだよ」

悪いと思う気持ちはこれっぽちもなかったが、一応謙虚に謝罪しておく。

「褒めてないだろ、全然!大体おまえは、いつもいつも……!」

更に続く苦情を飲み込むようにキスで塞いで、これ以上発言するのを強制的に阻止した。

「……っ……ふ……っ……んん……」

舌を絡めとり唾液を奪うように啜れば、干上がるように渇いていた喉を生暖かく潤わせて、もっとほかの体液も欲しくなる。

半開きになった悠生の口元から零れた、どちらのものともつかない唾液を舌で舐め取り、そのまま首筋、胸元、腹部、そして更にその奥の繁みの中まで舌でゆっくりなぞっていく。

「……っ……ぁ……っん!……ちょ、ま、……ま、……って、ま、だ……っ、……ああっ……!」

焦ったような声音で制止の言葉を紡ぐ悠生を無視して、達したばかりで敏感になっているものを、躊躇いも無く口に含んだ。軽く歯を立てると、小さく萎えていた性器が段々と形を変えていく。

自分のものよりも遙かに幼い色をしたかわいらしいそれの根元を手で扱きながら、アイスキャンディを舐めるようにぴちゃぴちゃと音を立てて、弱い裏側を舌で擦る。

「待って、じゃなくて、もっと、だろ……?」

欲を宿した鋭い瞳で悠生の顔を下から見つめる。今行われている行為を見せつけるように、下から上に向かって欲望の証をぺろりと舐め上げた。

その卑猥な光景を見て感じたのか、眉根を寄せて掠れた喘ぎを漏らす。硬く張り詰めていた先端から、ぽたぽたと透明な雫が零れ落ちた。

視界と感覚の両方で犯しながら、手の中にある先ほど吐き出させた精液を、今はまだ硬く閉じている後ろの蕾に潤滑剤代わりに使用する。白い液でぬめった周囲をひとしきり撫でた後、指を一本ゆっくりと時間をかけて侵入させていった。

身体の中に入って来た異物の感覚に、いやいやをするように反射的に腰を引いて逃げようとするのを許さず、指をゆったりと動かしながら、口に含んだままの屹立を啜るようにしゃぶってやる。

「……あっ!や……っぁ、んん……っ!」

手で刺激を与えられる時よりも数倍感じるのか、俺の頭を両手で抱えるように引き寄せ、更なる刺激を求めて腰をもどかしそうに何度も揺らした。

その動きに連動するように指を二本突き入れて、中を拡げていく。昨日も時間を掛けてじっくりと愛した小さな桜色の窄まりがどんどん綻んで柔らかくなってきた。

あまり日をあけず頻繁に抱いているせいか、受け入れるまでの時間が回数を追うごとに短くなってきたようだ。

少しずつではあるが、確実に悠生の身体が自分のために拓かれ、作りかえられていくのを肌で感じて、愛しいと思う気持ちが波のように絶え間なく自分の中を流れてゆく。

「……んっ……は……あぁ…っ……んぅ……っ」

じゅぷじゅぷと卑猥な水音を立てて荒々しい口淫を施しながら、指で中を掻き回す。溶けるような熱い内側の粘膜がきゅっと収縮して、俺の指に吸い付くようにしてくるのがいやらしい。

この中に入れたらどれほど気持ちいいかを、身を以て知っている身体が、目の前であられもなく身を捩り快楽に喘いでいる悠生を今すぐ欲しいと叫んでいた。

指が三本入るようになった頃「もう、平気……?」とお伺いを立ててみれば「……ん。へ……き、だから……っ、はや、く……っ」と腰をくねらせて、もっと熱いものが欲しいと強請ってくる。

さすがにこれ以上はもう我慢出来そうにない。

「……息をゆっくり吐いて……そう。そのまま、力抜いてて」

ジッパーを下げて血管が浮き出るほどに張りつめて硬くなった自身を取り出し、軽く指で扱いてから、綻んだ場所にあてがった。なるべく痛みを感じさせないように、慎重に腰を進めて少しずつ欲望を沈めていく。

隙間なくみっちりと埋め込まれた先端で感じる内部は、蕩けるように熱く濡れていた。すぐさま根元まで全部入れて腰を激しく動かしたい衝動に駆られたが、大きく息を吐いてなんとかそれを抑える。

ぎちぎちにきつく締めてくる濡れた粘膜に、腰の奥がジンと痺れるように熱くなった。

(―――ああ……やっぱり最高にいいな)

「……っ……悠……大丈夫?」

暫しの間熱くてもどかしい感触を堪能しながら、泣きそうな顔で俺を見上げている悠生の髪に口付けて、馴染むのを待った。

少しずつ身体の力が抜けて結合部分が緩んできたので、再び狭い路を掻き分けるようにして侵入していく。

括れのある太い部分を通過し、半分以上おさめきった辺りで一旦動きを止める。

根元まで挿入せずにそこで浅い抜き差しを何度か繰り返していると、切れ切れに喘ぎ声を漏らして、

「……もっ……、と……お、奥、まで……っ…だい、じょ、ぶ……、だからっ……」

更に煽る様なことを言ってきた。

痛みはほとんど感じていないようで、生ぬるい刺激よりも、もっと確かな快楽が欲しいのだと淫らに誘う。

神経が焼き切れるようなひどい飢餓感を覚え、たまらず悠生の肩を押さえつけて欲望を一気にねじ込んだ。

「―――っ、ああっ!あっ……あっ!あぁんっ!」

抑えきれない欲求を華奢な身体にぶつけるようにして腰を激しく動かしていく。ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てて、繋がった部分からいやらしい液が溢れてきた。

「ン……あぁっ、や……っ!」

仰け反った白い首筋に噛み付くように口付けを落として、薄いピンク色をした突起に吸い付いた。

あいた手で鼓動を確かめるように、律動で揺らめく悠生の胸元をそっと押さえる。どくどくと脈打つ熱い命の音が掌越しに伝わってきた。

心臓のあるちょうど真上辺りに、祈るように想いを込めて口付け、きつく肌を吸うと―――小さな赤い痕が残る。

それは目に見える征服の証だった。

心の中に潜むほの昏い独占欲や支配欲が少しずつ満たされていくのを心の奥で感じながら、心も身体ももっと欲しいと、目の前の一人だけを苦しいほど渇望していた。

 

 

*****

 

 

「―――ん……っ、え……っ、ちょ……っと、この体勢やだ、無理……っ」

下肢は繋がったまま、脇の下に手を入れて軽すぎる身体を抱き上げると、今度は膝の上に向かい合うように座らせる。

奥まで深く繋がることが出来るこの体位は、悠生の感じている可愛い顔がよく見えて俺は好きだったが、悠生は昨日も「こんな赤ちゃんが抱っこされてるみたいな格好は嫌だ」と言っていた。しかも「オレは犬や猫じゃない」という一言もつけて。

赤ん坊にするのとは意味合いからして全く違うというのに、どうも発想が妙な方向へ行ってしまうらしい。

愛でる≠ニいう意味では多少当て嵌まらないこともないが、そこで動物を引き合いに出すのはあまりにも色気がないと少し呆れたものの、そんな所が悠生らしくて、良いとも思う。

子供にするような事を、子供じゃない大人同士がする時、裏にどんな思惑を隠し持っているかということに気づくには、まだまだ時間がかかりそうだ。

「やだじゃない……昨日だってしただろ?」

「……っ……あっ……あぁ……っ……!」

少し力を入れたら折れてしまいそうに細く肉付きの薄い腰を両手で掴み、上下に揺さぶって滾った欲望を何度も出し入れする。

「……っは……ぁ、んっ……ンン……っ!ぁ……っあ……っ」

細くて少し高めの感じ入った喘ぎ声は雄の本能である欲を刺激し、激しい劣情を抱かせる。

もっと鳴かせたくて、円を描くように腰をゆっくりと回してやれば「……もっ……そん、そんな、やらしい動き、するな、よぉ馬鹿……っ」と涙ながらに詰られた。

その泣き顔にまた煽られて、今度は息も出来ないくらいに激しく揺さぶった。深く腰を突き入れ、中にある小さなしこりを狙って、押しつぶすように抜き差しする。

「……っ!ぁ……あああっ……!い、や……っ、そこ、嫌だ……っ!ああ……っ!」

前立腺をダイレクトに刺激されて味わう悦楽にまだ慣れていない悠生は、怖いと言って、俺の肩を叩きながら逃げるように身体を離そうとしてくる。力の入っていない腕で必死に抵抗してくるのを難なく封じてきつく抱きしめれば、結合が更に深くなった。

「あぁ、ン……っ!」

途端内側の粘膜がうねるような動きを見せて、中にいた俺の雄を艶かしく愛撫する。たまらない心地よさに思わず腰を前に突き出すと、体内で更に体積を増した欲望の先端が偶然悠生の好いところを掠めた。

その衝撃に甘い悲鳴を上げた悠生は、小刻みに震えながら、とうとう本格的に泣きだしてしまった。

敏感な身体にはきっと麻薬のような凄まじい感覚だ。気持ち良さよりも本能的に恐怖を感じてしまうのだろう。

今はまだ開発途中の幼い身体でも、すぐにその怖さこそが至上の快楽になる事を知る日が来る。

自分好みに一から仕立てあげながら、セックスの悦びを余す所なく教授して、離れられなくしてやりたい。

零れた涙を舌で吸い取って「大丈夫だから」と言って安心させるように頬をさすり、さらりとした柔らかい髪を撫でてやった。 

そのまましばらくしてやっと落ち着いてきたのか、おずおずと躊躇いながら身体を寄せて来る。

そっと触れるだけの軽い口付けを額に落としてから、力を抜いた所を見計って、ゆっくりと動き出した。

感じすぎてつらいからそこはもうやめてと訴える悠生の言葉を無視して、再度先端をその快楽のポイントに定めて抉るように深く突いていく。

多少嫌がられても、慣れさせるにはまず回数をこなすのが一番だ。

「……や……っ!……あっ!り、律……っ!あ……っ、ぁっ、やだって、もう……っ」

「……何で?……いいだろ、ここ……お前の一番、感じる所だよ……」

多分、あと何回もしないうちにこっち≠セけでイケるようになるよ……今よりもっと気持ちよくなれるから―――

耳の穴に舌を差し入れて熱い息を吹き込みながら教えてやると、秘部の内側が答えるようにきゅっと収縮した。

「……っ……こら、そんなに締めるな。ほら、いい子だからもう少し、我慢出来るだろ……?」

「やだ……っ!……もう、ほんとに、きつ……いっ……助け、て、律……っ!」

涙を滲ませながら助けを求めて伸ばしてくる悠生の手を掴み、左の薬指の付け根を軽く噛んでから、自分の首にしがみ付くよう導いてやる。

熱い肌が隙間なく合わさり、激しく脈打つ鼓動を感じた。もっと深く、奥の方まで犯したい。

悠生の身体を浮かせるようにして欲望を一旦引き抜くと、再び腰を落として、一気に貫いた。

「―――っ!」

「……助けない。もっと、もっと滅茶苦茶にしてやりたい、お前のこと……っ」

「あっ、あぁっ……!あっ!あっ!……やぁ……っ」

重ねた唇を強引にこじ開けて舌を引きずり出し、きつく吸い上げる。

ツンと尖った乳首を左手の指で捻り上げるようにして摘みながら、右手を使って今にも弾けそうなほど張り詰めた性器を、律動にあわせてリズミカルに擦り上げる。悠生はたまらないといった表情で、自らもいやらしく腰を振ってきた。

「……っ」

動きながらそっと悠生の様子を窺うと、半ば焦点の合っていないとろんとした熱っぽい目つきで、荒い息を吐きながら無心で快楽を追っている。

その表情は普段の無邪気で子供っぽさの残る顔からは想像もつかないほどの艶があって、男の欲を誘う匂い立つような甘い色気があった。

吸い寄せられるように顔を近づけて半開きになった唇を舐めると、自分から舌を出して、もっと、と深いキスを強請ってくる。その甘えるような仕草がどうしようもなく可愛くて、もうたまらない。

(―――ああ……そろそろ、俺もやばいな)

そう思った刹那、首筋にしがみ付くようにして抱きつていた悠生が身体を僅かに離したかと思ったら、俺の肩に唇を押しつけて緩く噛んできた。

「―――っ!」

くすぐったいようなもどかしい甘噛みに、ゾクリと背筋に甘い痺れが走った。まるで悪い毒に蝕まれるようにそれは全身に広がっていき、強烈な欲情を引き起こす。

骨の髄まで犯して全てを奪ってしまいたいという激しい衝動に我を忘れて、ひたすらこの行為に夢中になった。

下の動きを模倣するように上の口でも舌を繰り返し出し入れし、絡み合わせて唾液を啜り上げる。

息が苦しいと背ける顔を、無理矢理顎を掴んで引き戻した。激しい口付けを何度も交わしながら、欲望をくわえ込んだ小さな尻を揉むようにして掴み、目茶苦茶に腰を動かす。

  汗ばんで湿った悠生の肌からは、桃のように甘い香りがした。

「ひ……っん!……ぁ……あっ!………あ、もう……っい、っちゃ、う……イっちゃう、律……っ!」

感極まったように涙を流しながらすすり泣いて懇願してくる悠生に「悠……感じてる……?な、気持ちいい……?」と耳元で囁き、もう限界なのをわかっていながらわざと最後の時を意地悪く引き延ばして、卑猥なことを言わせてしまう。

「あ……っん……い、いい……っ……気持ち、い……っ!から、……早く……っ」

「うん。だから……なにがいいのか、ちゃんと教えて……?」

ほら、悠?と、声だけは優しく唆すように言葉を促し、腰を揺すって激しく責め立て、吐息を奪うように口付けながらぎりぎりの所まで追い詰める。

「……んっ……り、律の……おっきいの、が、はい……って……気持ちいィ……から、感じる、から……っ!あぁっ……もっと……っ、も……っと、ほし、い……っ!」

恥ずかしそうにしながらも、強烈な快楽にほとんど意識が飛んでいるせいか、素直に感じていることを舌ったらずに告げてくる。

甘すぎる赤裸々なこのおねだりに理性は完全に消え去り、後はただ獣のように餓えた身体を満たしていくだけ。

箍が外れたように腰を揺らして何度も感じる所を突き、焦らすように抜いては喪失感を与え、再び自分の存在を知らしめるように怒張したものを最奥に打ち込んでいく。

行為の激しさを物語っているかのように、二人分の体重を乗せた椅子がぎしぎしと悲鳴を上げていた。

激しく揺さぶられながら俺の背に必死にしがみついてくる悠生が、泣き声まじりの高い喘ぎの合間に自分を求めて名を呼ぶのがあまりに愛おしくて、おかしくなりそうだ。

どろどろになって繋がった下肢から、身も心も一つになったような錯覚を起こす。

この上なく甘い幸福な気持ちに浸りながら、一気に果てを目指して愛しい身体に欲を全身でぶつけていく。

「あっ……!あぁっ……ん……!り、つ……律!あっあっ!あァっ!」

引っ切り無しに漏れ出る嬌声は、激しくなる腰の動きと共にどんどん切なさを増していく。

根元まで欲望を一際深く突き入れた時、繋がった内部が限界間近の雄に吸い付くようにして解放を誘い、脳が溶けるような凄まじい快感が身体の中を稲妻のように突き抜ける。

「……っ!……悠……ゆう、き……っ!」

「―――ひっ……!!あっ……あぁん……っ!」

―――放埓は、ほぼ同時に訪れた。

激しい律動と共に、濡れそぼって真っ赤に腫れ上がった性器を激しく手で扱いてやると、甘い悲鳴のような高い声を短く上げて一足早く悠生が達した。

きつい締め付けによって体内で限界まで膨れ上がった俺の欲望が、後を追うように勢いよく弾ける。

「……っ……く……っ……」

低く呻いてひくひくと収縮を繰り返す熱い体内へ数度に渡って劣情を叩きつける。最後の一滴まで全て注ぎ込むと、繋がった蕾の間から飲み込みきれずに溢れ出した精がとろりと流れてきた。

快楽で意識が朦朧としている悠生の胸元見ると、赤く刻まれた口付けの痕が残っていた。愛しいものを自分の身体で汚した証を見て、俺は身体だけでなく心の奥底まで痺れるような深い満足感を味わっていた。

「……ぁ……っん……あ」

たっぷりと注がれた熱い体液の感触にぶるりと肩を震わせている悠生の身体を抱きしめながら、額の汗を指で拭って髪を撫でてやる。

しばらくの間言葉もなくそうしていると、嵐のような激情は潮が引くように段々遠ざかっていき、変わりに穏やかで優しい時間が戻ってくる。

閉じた瞼に何度もキスをして唇を軽く吸い上げると、半ば放心したような状態の悠生が気だるそうに目を開けた。

溜め息を吐きながら「……お前、ちょっと、激しすぎ……」と独り言を呟くようにポツリと漏らす。

汗でしっとりと水分を含んだ前髪を指に絡めて弄びながら黙って聞いていると、

「何もこんな所で、最後までしなくったって……しかも……なっ……な……」

と、そこまで言って、急に口を噤んでしまった。

「……な?なの次は?」

俺が目線で続きを促すと、悠生は赤らめた顔で目を逸らして「……中に、出してるし……」と小声で言った。

「……何?聞こえない。もっと大きい声でもう一回言って」

勿論それは嘘だ。吐息を感じられるほど近い距離にいるため、はっきり声は耳に届いていたが、もう一度言わせたくてわざと聞こえないふりをする。

「……っ……いい!……なんでもない……っ……それよりも、いい加減、もう抜けよ……!」

下肢は未だ繋がったままだ。抱き合う体勢で俺の上にいた悠生が、腰を浮かせて身体を離そうとしたが、片手を背に回して胸の中に引き寄せ、動けないように押さえつける。

そのまま挿入したものが外れないように注意しながら、抱き上げるようにして机の上に乗せて、仰向けに寝かせた。

なに、なんだ―――と目を白黒させている悠生に向かって、

「……まだ、駄目」

俺は満面の笑みを浮かべながら、中を掻きまぜるように腰をゆったりと回した。

「……っ!」

ぐちゅ……っと大きな水音が立ち、入り口に下生えが当たるまで深く挿入した。上から大きく突き上げると、それに応えるように熱い粘膜が絡みついて、いい具合に締めてくる。

たちまち中の肉棒は熱く勃ち上がって、大きく膨らんだ。「……やっ……!また、おっきく……っな……っ、ちょっと……り、つ……っ!」

(休憩はこれにて、終了―――本番は、これからだ)

口元に淫蕩な笑みを浮かべて、渇いた唇を舐める。

身体を起こして俺から離れようとする悠生の肩を力ずくで押さえつけると、二度目の甘い失墜に向かって律動を開始した。

もう嫌だ、ぜったい無理だ、こんな所で二回もやるなんて冗談じゃないと喚きたてる恋人の騒がしい抗議を、

「論より証拠」

と一蹴。天然で世界一可愛い自分だけのお姫様に、本日二度目の格言を厳かに謙譲した。

……嫌だと言っても、許さない。

なぜならこれは、いわれの無い浮気疑惑をかけられた俺が身の潔白を証明するための、正当性溢れる合理的な行為なのだから―――



 

【ACTXX】END

                   2014/10/27再up 2016/10/01改訂